6・カワイ株はどのようにして発見されたのか  


 一つの乳酸球菌エンテロコッカスを分離採取し、ネズミへの投与が最低でも2週間、したがって結果が出るのは、1ヶ月かかります。私の部下の中にも疲労感がたまってきました。私も土、日なし、家に帰るのは真夜中という状態が連続しました。
 しかし、私は“go”と言い続けました。いや“go for brake”(当たって砕けろ)だったかも知れません。

 何故でしょうか、私の頭には失敗という言葉はありません。絶対に失敗という文字は、私には、浮かばないのです。成功する迄やり抜けば、失敗はないのです。成功の前にくじけて、尻尾を巻いて引き下がるから失敗なのです。成功したときの喜びを、体で知っている私は引き下がることはありませんでした。
 当時の私は、ちょうど40歳を過ぎたばかりの油の乗り切った年齢でした。土、日など全く休日のない日々が2年続きました。
 テストした乳酸球菌、エンテロコッカスは優に1000株を超えていました。何故これ程までに自分に厳しく研究ができたのか、それは私の心の中にある自惚れにも近い使命感です。つまり、アメリカのピッツバーグ市マーシイ病院で見た、ガン患者の悲惨な姿が私の脳裏から離れなかったのです。今でも私の頭と心には、ガン患者の悲惨な姿があります。そして、このガン患者、ひいては成人病患者を救うのだという私の使命感、つまり“思い”だったのです。単なる情熱だけでは、研究は長続きしないし、大発見ができません。人間の、幸せに対する使命感を持たない人はダメです。ですから、すべての研究者という名の人々、大学も民間も含めて100株くらいで研究を中止してしまうのです。特に、日本人はリスクのある研究、初めての研究をやりたがりません。安全な模倣ばかりやっているのです。
 使命感と独創的アイデアがなければ大発見は生まれません。1000株を越えても、乳酸球菌エンテロコッカスの探索は続きました。しかし、たしか1400株を越えたところで一大転換が来ました。

 ついに発見したのです。この夜、部下達と祝杯を挙げました。私はお酒をやめていたのでジュースで乾杯しましたが、この夜は幸せに酔いしれていました。
 血中のコレステロールだけでなく、中性脂肪も著しく低下させる乳酸球菌エンテロコッカスを発見したのです。

 この乳酸球菌は、エンテロコッカス・フェカリス菌に属することを確認し、エンテロコッカス・フェカリス・カワイ菌と名付けられました。

 発見者の私の名前を取って、カワイ菌と国際腸内細菌学会で命名され、論文に使われたのです。


 このカワイ菌は、コレステロールを44%、中性脂肪を73%低下させることがわかったのです。これは凄い低下率なのです。
 動脈硬化の研究は、ネズミだけでは不十分で、ウサギ、そして人々への投与が証明されなければなりません。そして、臨床実験では、患者のコレステロールを最大57.2%・中性脂肪46%低下させることが証明されました。

『余談ですが、ネズミのコレステロールを少し下げたり、免疫能を少し活性化する乳酸菌は、食品の中にいくらでも存在します。』

 カワイ菌は世界で初めて、人間の腸内細菌から発見され、コレステロールと中性脂肪を著しく低下させることが、学会で証明されたのです。

 1984年6月22日、日本動脈硬化学会の招待講演シンポジウムで、私は胸を張って、意気揚々と発見を発表しました。

 いみじくも、6月22日は私の妻の誕生日でした。

 この研究発表は、読売新聞の一面トップに掲載され、他に朝日新聞、毎日新聞を始めとして日本中の新聞に取り上げられ、世界でもメディカル・トリブューンという新聞を通じて報じられました。そして世界に反響を及ぼしました。
 最後に、もう一つのカワイ菌の特長は、生きた菌よりも熱水処理した死んだ菌の方がより強い効果があることです。今までは、乳酸菌は生菌が良いと世間では言ってきたのです。
 (生菌が良いというデーターとしての証明が未だにありません)

 私の菌では死菌の方がずっと動脈硬化に効果があることが分かったのです。

 この事は、ともすれば生菌でないと有効でないという妄想を根本から覆した、世界で初めての画期的発見でした。

 

   書き終えて、私自身はまだまだ書き足りない思いがあります。
   しかし、あまりに長くなりますのでここで筆を置きます。
   終わりに、

 私を支えてくれた妻、そして私の厳しい指導に付いてきてくれた部下の皆さん、臨床をしてくださった病院の先生方に厚くお礼申し上げます。
 又、この本を読んで一人でも多くの人が予防医学の重要性に気付き、カワイ株によって健康な日々を過ごして頂ければと心から願っております。

河合康雄





章の一覧頁 章のトップへ戻る ページのトップへ戻る 前のページ 次のページ

 
Copyright (C) 2007 Kawai Lactic Acid Bacteria Research Institute Co., Ltd. All Rights Reserved.