3 腸内細菌としてのエンテロコッカス  

3 ヒト糞便のエンテロコッカスのSpecies(菌種)レベルでの幼児型と成人型分布の相違

 腸内細菌の複雑な宿主(ヒト)への影響を理解するためには腸内細菌の実態及び、それを構成する細菌の生理的性状を知ることも重要である。
先ほどから述べているように、我々のは、エンテロコッカスに焦点を当てている。それはエンテロコッカスがヒトに対して重要な意味を持つからである。ヒトの回腸及び下部腸管では、エンテロコッカスが優勢な菌といわれますが、これはとりもなおさずエンテロコッカスの宿主への影響力が大きいと言う事です。

 図37に、幼児と成人の糞便中のエンテロコッカスの分布を示しました。
エンテロコッカス・フェカリス、エンテロコッカス・フェシウムについては、両グループとも安定した比較的、高い分布を示しますが、幼児だけ、エンテロコッカス・エビウムが検出されること、成人からは、エンテロコッカス・サリバリウス、エンテロコッカス・ミティスが多く分離される事などの大きな違いがあります。このように明らかにエンテロコッカスでは幼児型と成人型に違いがあり一方、エンテロコッカス・フェカリス及びエンテロコッカス・フェシウムのように共通型も存在します。


図37

4 エンテロコッカスの定着性(乳酸菌及び乳酸球菌の定着性の比較)

 ヒトの腸管には複雑な、腸内細菌叢が形成され、ヒトの諸機能は直接的、或は、間接的に影響されていることは前述した。
 我々はヒトの腸管内の菌叢を反映するものとして糞便の菌叢をエンテロコッカスに注目して検索し、10菌種のエンテロコッカスが検出され、幼児と成人間での菌種の分布が異なることを明らかにした。エンテロコッカスは腸管の各部においてどのような分布をし、定着しているかを調べるために、無菌ラットにヒトから分離した3種類の乳酸菌(エンテロコッカス・ラクトバチルス・ビフィドバクテリウム)を経口投与して、8週間後に胃腸管の各部位の内容物に定着している菌と、各部位の壁に定着している菌を調べたのが図38です。


図38

 図38でわかるように、エンテロコッカスは内容物では回腸以下と糞便で圧倒的に菌数レベルが高く(109-10/g)、壁では下部腸管の方が上部腸管よりも高くなっている事がわかります。ラクトバチラス・ビフィドバクテリウムは内容物では盲腸、結腸、糞便でのレベルが高く、壁では盲腸と結腸でのレベルが高くなっていますが、エンテロコッカスの菌数レベルと比べますと、ラクトバチラスで約100分の1程度にしか過ぎません。このようにヒトから分離した乳酸菌が宿主が違うラットにも高いレベルで定着し、しかも乳酸菌の中でエンテロコッカスが最も優勢な定着をしている事もわかりました。そしてこの定着しているエンテロコッカスの菌種を調べてみますと、エンテロコッカス・フェカリス、エンテロコッカス・フェシウムなど、いわゆる腸管型のエンテロコッカスで口腔型のエンテロコッカスは定着していない事もわかりました。このようにエンテロコッカスの定着性はビフィドバクテリウムより100倍も高く、データーなしに云われて来たビフィドバクテリウムの定着性が高いと言う神話はここに崩れ去ったのである。研究者はどんな事があってもデーターに基づかない神話は述べてはならないことの実証である。エンテロコッカスの定着性は腸管下部(回腸以下)に多く存在し定着すると云われて来たが、私の実験結果からは胃から始まって糞便に至る全腸管に高いレベルで定着している事がわかった。


5 エンテロコッカス死菌体粉末による発ガン物質の不活性化

 発ガン物質には種々の物質があるが、特にニトロソ化合物は食物の中の、アミンと亜硫酸塩から容易に生成される。そこで我々は肝ガンを起こすジメチルニトロソアミン(Dimiethyl Nitoroso Amine)に注目し、この発ガン物質を不活性化するエンテロコッカスを探索した結果エンテロコッカス・フェシウムに著しい効果のあることを発見した。表4に示すようにエンテロコッカス・フェシウム(E,フェシウム:E, Facium)の13株に強い不活性化を示し平均52%もの発ガン物質を抑制している事がわかった。この事は大変な結果であった。


表4

ヒトの糞便から分離されたジメチルニトロソアミン活性阻害のエンテロコッカス
Species(菌種)
菌株数
阻害率
E.faecalis
E.faecium
E.avium
E.mitis
2
13
2
8
(%)8.0
52.0
8.0
32.0
 
Total 25
100

エンテロコッカスに関する新しい知見は、まだまだ沢山あるが、他の結果については私の著書をお読み頂きたい。私の思想は研究を決定づけるのは人間に対する愛であり哲学だと思っている。



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