4 動脈硬化とは何か  

4・動脈硬化とは何か

 脳卒中と心臓病の最大の原因は動脈硬化であると言われている。
簡単に言えば両者とも脳、あるいは心臓の血管が詰まったり破れた結果、発症するわけで脳卒中や心臓病が「血管病」あるいは「循環器病」と言われるゆえんである。

 では、動脈硬化とはいったいどのようなものであろうか。ごく簡単に説明すれば、読んで字のごとく動脈が硬くなる事である。
 例えば、野ざらしのゴムホースがだんだんと弾力を失い硬くなり、ひび割れて最後にボロボロになってしまうことを想像していただきたい。健康な人であっても、老化により、生理的には少しづつそのような変化をしていくわけであるが、遺伝や食事の偏りなどにより心臓病や脳卒中の発作を起こすことになる。また、当然の事ながら発症頻度は老化により増加していく訳である。

もう少し専門的に説明すると動脈硬化は大きく3つに分類される。
@ 粥状(アテローム)硬化
A 細動脈硬化
B 中膜硬化
があり、中でも粥状動脈硬化は大動脈や脳動脈、あるいは心臓の栄養を司る冠状動脈など太い血管で発症し、血液中のコレステロールや中性脂肪(トリグリセライドTG)等が、血管の内膜に入り込み内膜に粥腫を起こす。

図

 この粥腫により、血管が細くなりそこで血栓を起こすと組織に血液が流れなくなる。この状態が脳で発生すれば脳血栓、心臓で発生すれば心筋梗塞となる。
 一方、細動脈硬化は非常に細い血管で発生する。動脈硬化で高血圧等の影響を受けやすく特に脳と腎臓に発生しやすいもので、脳で発生すればいわゆる「ぼけ」が発症し、腎臓で発生すれば腎不全が発症する。


 この動脈硬化を増長するリスクファクターとしては
 1 高脂血症 2 高血圧 3 喫煙 三大リスクファクターの他に 
 4 肥満 5 糖尿病 6 痛風 7 ストレス 8 遺伝 9 運動不足
 
などの重要因子があり、これらをたくさん持っている人ほど発生しやすいと言われる。この中で筆頭に挙げられるのが高脂血症であり、血清中のコレステロールや中性脂肪が高い状態は最も動脈硬化になりやすい状態の一つであると言える。動脈硬化について述べたが、その中で動脈硬化と最も密接な係わりを持つコレステロールや中性脂肪の話が出てきた。
 それでは脂質やコレステロールは一体どういうものなのかを説明しよう。脂質とは何か。「脂質」というと難しそうであるが生物体に存在する油の事を言う。肉や魚、豆なども生物体であるから、これらに含まれるあぶらも「脂質」だし、私たち人間の体も生物体であるので人間の体にあるあぶらも「脂質」である。では、生物のあぶらである脂質にはどのような物があるだろうか?
 動脈硬化と深い関係にある脂質について簡単に説明する。

  @ 中性脂肪
 (トリグリセライド)トリアシルグリセロールとも呼ばれる。最も普通の油で、ごま油、大豆油、ラード、ヘッド等食用油の主成分で生物が成長したり運動したり、体温を保つためのエネルギー源となる。又、エネルギー貯蔵の為に身体に蓄えられる。
 (皮下脂肪もこれに当たるが身体から熱が逃げるのを防ぐ役目もしている)

  A 脂肪酸
 上に述べた中性脂肪は、脂肪酸と言う脂質とグリセリン(グリセロール)とが結合して出来たもの(脂肪酸3分子に対して、グリセリン1分子の割合で結合している)であるが、中性脂肪の生物のエネルギー源と言う大事な役割を担うのは脂肪酸である。脂肪酸には多くの種類があるが大きく飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸に分けられる。脂肪酸の骨組みは、炭素が鎖のようにつながって出来ているのだが、この炭素の鎖に水素がいっぱい結合している脂肪酸を飽和脂肪酸と言う。
 又、水素が結合できる余地を持っている脂肪酸を不飽和脂肪酸と言う。人を始め多くの動物は必要な不飽和脂肪酸の一部を身体の中で作る事が出来ず、食物から摂らないといけない。近頃、コレステロールを減らす働きがあるといって、コマーシャル等で話題になっているリノール酸は不飽和脂肪酸である。

  B コレステロール
 最後になるが本稿で最も重要な脂質がコレステロールである。コレステロールは多く摂りすぎると良くないが、動物にとって無くてはならないものである。生物の体は小さな細胞が集まって出来ているが細胞の外側には「細胞膜」と言う主に脂質と蛋白質から出来ている薄い膜がある。コレステロールは動物の細胞膜をつくっている脂質のひとつである。特に神経細胞には多量のコレステロールが含まれる。また男性ホルモン、女性ホルモン、副腎皮質ホルモンや脂質に必要な胆汁酸が体内で作られる時の原料となる。


図39

人間は体内でコレステロールを作る事が出来るがもう少し詳しく説明しよう。
さて、諸悪の根源のように言われるコレステロールは分子式で書くとC27H46O、構造式では左(上)の図39のようになる。


 コレステロールは糖質代謝や脂肪酸代謝により生体内で20数段階を経て生合成される生体内の全ての細胞が生合成能をもち、また、前述のように細胞膜の重要な主成分である。
 したがってコレステロールは諸悪の根源どころか、人間が生きて行く上で無くては成らないものである。
 又、コレステロールは腸肝循環を通じて脂質代謝(消化・吸収)に重要な働きをする。
 胆汁酸に変換され、又、腸内細菌により不必要なものは2次胆汁酸やコプロスタノールとして便中に排泄される。

 このように人間の体は恒常性維持(ホメオスタシス)のために腸内細菌の作用により不必要なコレステロールはコプロスタノールとして排泄されるようになっている。

 以上のようにコレステロールは細胞膜の構成成分であったり、胆汁酸やステロイドホルモン等、生体にとって重要な物質の前駆体であり無くては成らないものである。

 しかしながら、余分なコレステロールが組織に沈着すれば、動脈硬化になったり胆石症になったりして悪い作用をする事になるわけである。

 近年、食事の西洋化に伴い肉食によるコレステロールの摂取量が増えてきており、子供達の魚嫌いやハンバーガー等を好むという話もあり、この子供達が老化して行った時の事が不安であると言われる老年科の先生方も居る。

 すなわち余分なコレステロールを摂りすぎたりあるいは遺伝疾患で体内の余分なコレステロールが処理しきれない事により高コレステロール血症(高脂血症)となり動脈硬化へと進展していく可能性が高くなる。したがってあくまでも余分なコレステロールが病気の原因であって、適正量のコレステロールは生きていく上で不可欠である事を強調しておきたい。



章の一覧頁 章のトップへ戻る ページのトップへ戻る 前のページ 次のページ

 
Copyright (C) 2007 Kawai Lactic Acid Bacteria Research Institute Co., Ltd. All Rights Reserved.